直江状

1598年8月18日、豊臣秀吉没す。享年62歳。
露とおち露と消えにし 我が身哉
難波のことも夢のまた夢


秀吉の死によって天下は再び乱れるコトになる。
当時、力のあった大名は、五大老と呼ばれる、
徳川家康、前田利家、上杉景勝、毛利輝元、宇喜多秀家の5人。

その中でも武力、人格ともに拮抗していたのが家康と利家だった。
しかし、利家には野望はなく、そして病んでいた。
1599年3月3日、前田利家没す。享年62歳。
利家の正妻、まつが家康の人質になるコトにより前田家は徳川への忠誠を誓った。

そこで徳川が目を付けたのが、上杉景勝である。
上杉に叛意ありと密告したものがあったことをきっかけに、家康は1600年の正月明けから詰問状を送り上京を促した。

この時、上杉家家臣、直江兼続が景勝に代わり家康にあてた書簡が、俗に言う直江状である。


さて、ここからが本番です。
直江状を現代語に訳したものは数あれど、ここはデスシティーだ!!!
少し、コーナーの趣旨と違うけど、デス市長アルバートが昭和軽薄体で訳しちゃうぞ!!!





Dear いえやっさん

1日付けのお手紙が昨日の13日に届きました。
楽しく拝見させていただきました。ありがとね♪


○いえやっさんが、色んなウワサ話を信じちゃって、オレ等を疑ってるみたいだけど、仕方ない話だよね。
京と伏見みたいな近い場所でもウワサ話でちゃってるから。
それにもまして、オレ等の国は京から遠いし、うちの親分のかげかっつぁんはまだ若いから、足を引っ張ろうと思ってるヤツも多いだろうしね。
そのウワサ話も実際いかにもって感じだし、いえやっさんもあんまりホンキにしないでね。
まっその内、ちゃんとした話が聞こえてくると思うし。


○かげかっつぁんが京に行くのを延期したのが、ウワサ話の発端らしいけど、そんなコト言われてもねぇ…
だって、一昨年に太閤さまから越後から会津に引っ越せって言われてから、すぐに京に呼ばれて、やっと去年の9月に会津に帰って来たってのに、年明け早々にまた京に来いって言われたって、引っ越しの後片付けができないでしょ?
それに、会津ってのは雪国なのよ。10月から3月までは雪降ってちゃってなんもできんのですよ。
それでも疑うんだったら、身近の会津出身の人にでも聞いて見てよ。
そんなコトでかげかっつぁんが京に行かないでいえやっさんと戦しようって準備してるってウワサ話たてられてもねぇ…


○かげかっつぁんに、反乱するって企んでないって、誓約書なりを書いて送って来いって話なんだけど、いえやっさんも亡き太閤様に誓約書書いたよね?
あれってなかったコトになってるんすか?
だったら、かげかっつぁんに書けってのもおかしな話じゃねーの?


○太閤様が生きてた頃から、かげかっつぁんは律儀なヤツだってみんな言ってたよね。今でも変わってないよ。
太閤様が亡くなった途端に手のひらを返してる世間の方が、オレに言わせりゃおかしいんじゃないですかねぇ…


○かげかっつぁんにはやましい気持ちが一切ないけど、バカみたいなコトを言ってるヤツ等を信用して、ちゃんと調べようともしてないだなんて、ちゃんちゃらおかしくて…
いいかげんな話じゃなくて、そいつらを呼び出してちゃんと話を聞いてくれませんかね?
そんなコトもできないようだったら、かげかっつぁんじゃなくて、いえやっさん、アンタが怪しまれるよ。


○加賀の前田さんトコの件は、いえやっさんの考え通りにコトが進みましたね。
たいした御威光ですよね。


○たしかうちの担当は榊原忠次さんだったはず。
かげかっつぁんが反乱の準備してるってウワサ話がでてるんだったら、忠次さんがいえやっさんに意見するなりするのが、武士としての筋だし、いえやっさんの為にもなると思うのよ。
なんだけど、忠次さんったら、元々うちの領地だった越後にいる堀秀次に踊らされて、上杉の為になんもしてくれません。
いえやっさんへの忠義からきてるんだか、はたまたただのバカなのかわかんないけど、上杉の為に動いてくれるようにもう一回頼んでみますわ。
そう言えば五奉行の増田長盛さんと、従五位下の大谷吉継さんがいえやっさんの側についたみたいね。
忠次さんがダメだった場合はこのお二方にお願いしてみますよ。


○とにかく、ウワサ話がでているのは、かげかっつぁんが京に行くのが遅れているからだけだって話でしょ?


○武器を集めているコトについてのご指摘なんすけど、都会の武士が焼き物や、炭取り、瓢箪なんかおしゃれなモノをコレクションしたりするけど、田舎の武士は槍や、鉄砲など戦の道具をコレクションするモノなのね。
その土地での流行なんかもあるんで、気にしないで。
高価でおしゃれなモノをコレクションするって言っても、かげかっつぁんの財力じゃたかが知れてるし、実際似合わないと思わない?


○領内で道路を造ったり、橋を架けたりして堀秀次との戦の準備をしてるんじゃないかってご指摘なんですが、かげかっつぁんは、領内の交通の便を良くする為に、国主として国造りをしてるだけだよ。みんなやってるでしょ?
前の領地だった越後でも道路や橋を造ってたし、途中のままで会津に移って来てしまったモノもたくさんあるし。それは今の越後の領主の堀秀次がよくわかっているはず。
でも、堀秀次は越後に来ても、その途中の道路や橋に手をかけてません…それが気がかりで、気がかりで…

例えば、堀んトコロと戦するとしても、越後はオレ等の本国だしどこに何があるか知り尽くしてますよ。準備なんかしなくても、我々精鋭上杉が堀のようなひよっこをぶっ潰すなんて簡単にできるってわかるでしょ?わざわざ戦用に道路なんか造んなくても。
上野、下野、岩城、伊達政宗さんとの国境、最上さんとの国境、由利、仙北との国境、全箇所道路造りは当然のコト行ってます。
他の誰も文句は言わないけど、堀秀次だけがぐちぐち言ってるだけ。戦の仕方もわからないバカでもあるまいし。
もし、かげかっつぁんが戦の準備をしてるんだったら、普通道路なんか造んないよ。道路を塞いで、穴を掘って防戦の準備するでしょ?

今、各方位に道路がつながる様に工事してます。
いえやっさんならわかりますよね?全方位に道路がつながってるってコトは防戦に不利だって。
出陣しても反対から攻め込まれたら、そこで終わりです。
もし、他の国に攻められたら、オレ等は大軍をだせると思う?不可能でしょ?
それなのに、オレ等が戦の準備をしてるなんて、ほざいてるヤツ等ははっきり言ってただバカ。

江戸から、オレ等がどんな工事をやってるか、使者が見にくるんだってね。
おかしいと思ってるトコロは使者の人にしっかり見るように言っといてください。しっかり見ればオレの言い分に納得できるはずだから。


○ウソを言ってるつもりじゃなくても、話がだんだんウソっぽくなってくるコトってあるよね。
でも、それは自分にとっても他人にとってもよくないコトですよ。
さっさと朝鮮が日本に降参しないなら、来年、再来年にも大軍を送り込むぞって話はちょっとねぇ…
プッって感じですよ。


○今年の3月は、先代の謙信公の追悼式典があり、色々と忙しくしてました。
夏には一段落する予定なので、それから京に行こうかと思ってました。
かげかっつぁんが、京に行って留守の間に問題がないように、人材、武具等、領国の整備に必要なモノを集めていた矢先に、増田長盛さんと大谷吉継さんの使者がやってきました。
どうやら、かげかっつぁんの反乱のウワサ話が穏やかじゃないってんで、そんなつもりじゃないならさっさと京に行って、疑念を晴らしなさいって話でした。
これはいえやっさんの考えらしいけど、実際オレ等はそのウワサ話の真相もよくわかってないし、更には、このお二方も詳しい話はわかってないみたいで、ただ上杉に反逆の意があると深くも考えずに言ってるだけみたい…
まるでガキの使いです。まさに、利いた風な口をきくなーーー!!!って感じです。

この前までは、天下に対して野望を持ってた人達も、その野心が費えてしまった為に、親戚や知り合いを頼って、いえやっさんに新たに雇ってもらってるご様子ですが、上杉はそんな安っぽい真似はでしません。
かげかっつぁんにはやましい気持ちは微塵もないけど、怪しいウワサ話がでてる今、すぐに京へ行って、身の潔白を証明するってコトは、上杉代々の名を汚し戦場で培ってきた栄光をも失いかねません。
そちらさんで、ウワサ話を流してるヤツ等としっかり話をして、内容を吟味して貰うまでは京へは行きませんのであしからず。

このコトに対しては、かげかっつぁんが良いとか悪いとかは、いえやっさんが決める話ではありません。
上杉家中の藤田信吉が逃げ出していえやっさん元に行ったコトも知ってます。
かげかっつぁんが悪いのか、いえやっさんに下心があるのかは、きっと世間が答えをだしてくれるはずです。


○いくら長々と手紙を書いたトコロで、仕方ないのはわかってるけど。とにかくかげかっつぁんにはやましい気持ちはないの。
早く京にこい云々も、わざと伸ばし伸ばしにしてないのが、わかってくれたと思うし、現段階では行きにくくなってるのもわかってくれたと思います。
とにかくいえやっさんがちゃんとした判断をしてくれるなら京に行きますよ。
けど、いえやっさんが正しい判断をしてくれないなら、このまま会津にいます。
そんなことになったら、亡き太閤様との約束を破り、まだ小さい秀頼くんを見放すコトになっちゃいます。でも、それはいえやっさんの不手際でオレ等にはなんの落ち度もありません。

それでもまだ、ぐだぐだ言うなら戦してもいいですよ?
まあ、それで天下を獲ったとしても、オレ等が悪者になっちゃいますよね。その悪名は末代まで続いてしまいますよ。
でも、どうしてもって言うなら是非もないですよ。
いえやっさん、安心して。こんなコトを考えてるオレ等にやましい気持ちがある訳ないでしょ?

でもね、バカみたいなウワサ話を信用してかげっかっつぁんがあらぬ疑いを掛けられてるってのは我慢ならんのですよ。誓約書もなんもあったもんじゃないんですよ。


○こっちでも、堀秀次がウワサ話を錦の御旗に、会津に攻め込むってウワサ話がでてます。
あちこちの城に兵を集めてるだとか、兵糧を備蓄してるだとか、国境の近くに住んでる人達を人質にしてるだとか、国境の関所で人を通さないだとか、さまざまなウワサ話が飛び交ってます。
しかし、ウワサ話はあくまでもウワサ話。まともに取り合うのはバカがするコトです。


○こっそりいえやっさんに会いに行って、変な考えはないって伝えようかとも思ったんだけど、越後のバカはオレ等を悪く言ってるし、藤田信吉がうちから逃げてそっちにいるし、やっぱりかげかっつぁんを疑ってると思うのね。
下手にこっそり会いに行ったりしたら、尚更、疑われるかもしれないよね。
とにかく、真相が明らかになるまでは誓約書もなんも書けません。
いえやっさんをバカにする訳じゃないけど、ここで折れるのは武士(もののふ)の誇りが許さないのです。
折角取り成ししてくれてるってのに、ホントすいません。武士(もののふ)の意地は曲げられないのです。


○とにかく会津は田舎なもんで、真相が伝わりにくくて、憶測でモノを言うしかないんだけど…
いえやっさんの真意をオレ等は知りたいの。
今、オレ等の立場はかなり弱くなっています。ホントのコトを言ってるつもりでも、ウソっぽく聞こえてしまうのは仕方ありません。
いえやっさんのコトを気に掛けているからこそ、言っているのです。
実際、白黒はっきりしてるコトですので、いえやっさんの真意をはっきり教えてくれればオレ等も納得します。
いえやっさんとの長い付き合いに甘えて、つい長々と書いてしまいました。オレの素直な気持ちを書いたつもりです。
その為、結構失礼なコトも書いちゃってるんですけども、あんま怒んないで下さいね。

From 直江 山城守 兼続



いや〜意外と難しいモノですね。オレ的には利いた風な口をきくなーーー!!!を上手く使えて満足ですが、多分誰も意味わかんないんでようね。

それにしても、謙信公以来の武門の誉れを大事にする、上杉家の自負が読み取れて爽やかな返書ですね。


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